努力の先の否定

「バカがバカじゃなくなる日」連載3回目。

連載2回目をご覧になっていない場合はそちらから先にお読みくださいね。

バカ丸出しの大学時代、僕は美咲(仮名)という女性を口説こうと奔走しますが、断られ続けます。

そして、ようやく「このままの自分ではダメだ」と気づき、「自分」というものを学び始めることになります。

1.自分を受け入れることから始める

当時の僕は思い込んだら突っ走るタイプだった。

突っ走るのは「若さ」のせいなのか、それとも「自分に対する大きな危機感」のせいなのか。

僕は「9つの性格」という本をきっかけに、カウンセラーが書いたものなど、自己啓発関係の本を読みふけった。

その中で、すごく気に入った一文があった。

「他人が君に持つイメージで悩む暇があったら、100人の人に『僕ってどんな人?』って訊けばいい」

この言葉に衝撃を受けた。

「伊藤 守(著者)」さんの本だ。

伊藤 守さんの経歴・プロフィール

「コーチング技術」のパニオニア的な方で、コミュニケーションの研究を40年もしていた方。

著書「今日を楽しむための100の言葉」は、1ページに文章がたった1~2つしか書いていない斬新な本で、読もうと覚えば15分で読めてしまう。

ただ、その一文一文は、グサリと来るメッセージばかり。

タイトルからはまるでハッピーになれるような言葉が並んでいるのかと想像してしまうが、実際には自分の「囚われ」「勘違い」にするどくメスが入るように、厳しい言葉も結構ある。

僕は伊藤さんの本をかなり読んで、大きな影響を受けた。

 

「他人が君に持つイメージで悩む暇があったら、100人の人に『僕ってどんな人?』って訊けばいい」

確かにそうだ。

でも実際にそんなことできるのか?

最初は大きな葛藤があった。

僕はずっと人にどう見られているのかが怖かった。

でも、知ってしまえば別に怖くもなんともない。

だが、そうそう簡単にできるものでもない。

傷つくのは嫌だし、とても怖い。

でも、やらなくては!

当時の僕はそう思えた。

 

僕は翌日からさっそく行動に移した。

「なあ、かっつん、俺ってどんな奴?」

かっつんの家でさり気なさを演じて訊いてみたが、心臓はバクバクいっている。

「なんだよ、急に。どうかしたのか?」

かっつんは訝しげな目で僕を見る。

「いや、どうもしてないよ……。ただ、俺ってみんなにどう思われてるのかな、って思ってさ」

「どうって言われてもな……」

そりゃあこんなこと訊かれたら、何か悩みでもあるのかと思うだろう。

きっとかっつんは、下手なことでも言うと自殺しかねないと思っていたかもしれない。

「かっつん、正直に言ってよ。些細なことでも何でもいいんだけどさ……うーん、例えば、俺が熱い奴だとか……」

「熱い!? アズタが? 冗談だろ」

「…………」

どうやら、僕が自分に対して持っているイメージと、人が僕に持っているイメージとはかなりかけ離れているらしい。

「熱くない」という意味不明で抽象的なものでも僕はダメージを受けてしまう。

「ほ、他にないかなぁ……」

「他かぁ……」

「うん」

「あ、そうだ! アズタってさ、なんにでもタイミングが悪いよね。そうそう、ほんと、タイミングが悪い。あははは……あれ? アズタ?」

「…………」

かっつんは悪気がなさそうに笑っていたが、「タイミングが悪い」っていう一言がグサリと僕の心に突き刺さる。

なんだ、タイミングって!?

どういう意味なんだ?

一体なんのタイミングだ!?

だが、受け入れよう……。

「たまたま」かっつんが持っていたイメージだ。

きっと他の人が僕に持つイメージは違う。

それにしても、かっつんは間違ったイメージを持つ性格なんだなぁ。

「……他にはない?」

ポーカーフエイスのつもりだったが、きっと泣きそうな表情をしていたに違いない。

すると、かっつんは勢いづいたのか、すらすらと話し始めた。

僕の我慢している様子に気が付いて、イジメ心に火でもついたのだろう。

「そうだなぁ、あとはね、アズタはいつも恋愛の話しかしないよね。それも訊いてないのに」

グサリ。

言われてみれば確かにそうだ。

僕はかっつんの家に来ては、かっつんに自分の恋愛の話しかしていない。

「ぐぅ……。ほ、他は?」

「うーんとね、自慢話が多いでしょ」

ウソ、自慢話?

自慢している意識なんてなかったぞ。

でも、かっつんはそう感じてた?

僕はダメージを必死にごまかす。

「そ、そうだよね、はははは……。で、他は?」

「あとは、そうだなぁ……、うちの部活でイチバン人の話を聞いてないかなぁ」

ブチッ。

脳のどこかの血管が切れた気がした。

「それってさあ……俺の欠点ばかりじゃん……。かっつんだけだよ、俺にそんな間違ったイメージ持ってるの! もっと人のことちゃんと見ろよ!」

いきなり声を荒げてしまった。

自分から訊いておいて、逆ギレ。我ながら最悪の男。

かっつんは目を丸くした。

「だってさ、正直に言えって言うから……それに、別に欠点を言ったわけじゃあ……」

「もういいよ。かっつんに訊いても意味なかった!」

僕は再びかっつんの家を飛び出した。

 

僕はなんとかかっつんに言われたこと心の奥にしまい込んで、他の人たちにも同じ質問を繰り返した。

3、4ヶ月くらい繰り返しただろうか……。

だが、かっつんが言ったことと、他の人が言うことはほとんど同じだった。

認めざるを得なかった。

僕はいろんなタイミングが悪く、いつも自慢か恋愛の話ばかりで、人の話を聞いていない人間なのだ。

「タイミングが悪い」と表現したのはかっつんだけだったが、いろんな友人の言葉をまとめると、僕の特徴はこんなだったと思う。

要は、人のことをちゃんと観察していないから、空気を読まずに話しかけたり、人の話を遮ったりしていたのだ。

そして、僕は自分の特徴を少しずつ理解しつつ、こんなことを思った。

僕自身が自分にどういうイメージを持とうが、人が自分に持つイメージはなんら変わらない。

人が自分に対して持つイメージは、確かに自分の一部なのだ。

ただ、自分に対する質問を何度も繰り返しているうちに、いつの間にか受けるダメージは薄れていった。

これが「受け入れる」ということなのかもしれない。

いつしか僕は、笑って「俺ってほんと人の話が聞けないんだよねー」と言えるようになった。

それに、それが自分の欠点であるとは思わなくなっていた。

 

そんなある日、美咲から連絡があった。

2.告白

僕は飛び上がって喜んだ。

友人たちに「俺ってどんな奴?」と訊いている間に、凝りもせず僕は美咲をデートに誘っていたのだが、ずっと拒否されていたからだ。

自分へのイメージには傷付かないようになっていたとはいえ、彼女に対する思いは日に日に強くなり、断わられるのはやっぱり辛かった。

きっと僕が成長した成果が現れたんだ! と思った。

だって、今まで彼女から連絡があったことなど皆無だったからだ。

美咲に言われたとおり、僕は彼女の家に向かった。

「どうした? 俺のことが好きになっちゃったのかなぁ?」

この辺りの台詞はまだまだバカ丸出しである。

しかし、いつも言っている冗談だ。

いつもの彼女なら、

「なわけないでしょ」

と、さらりと流すだろう。

だが、その日の彼女は違った。

真剣な眼差しで僕を見ている。

ま、まさか、ほ、本当に「愛の告白」なのか!?

美咲はゆくっりと口を開いた。

どうしてその時彼女がそれを話してくれたのかは分からない。

今まで彼女に訊いたこともないし、今後も訊くつもりもない。

ただ、僕の誘いをずっと断り続けていた罪悪感が芽生えたのだと思う。

冗談ぽくではあったが、僕はずっと彼女をデートに誘い、断わられても平然さを装っていた。

それをきっと我慢しているものだと感じたのだろう。

彼女は決断したようにゆっくりと口を開いた。

「今まで黙っていてごめん。私、本当は他に好きな人がいるの……」

美咲は確かにそう言った。

美咲の好きな人は2つ上の先輩だった。

「……いつから……いつから好きだったんだ?」

本当は、いつからなんてどうでも良かった。

でも、頭が真っ白になってしまい、そんな言葉しか浮かばなかった。

胸のあたりがグッと締め付けられて、なんか呼吸がし辛い。

「分からない……。多分、1年の頃から」

大学一年生の時から。つまり、僕が美咲とキスをする前からだ。

「じゃあ、どうして……」

そこまで言って僕は口をつぐんだ。

以前の僕なら、他に好きな人がいるのにどうしてキスをしたんだと責めていただろう。

「…………」

テレビのボリュームだけが流れている。

彼女の部屋の匂い。

いつもならその匂いが、胸の高鳴りと落ち着きの両方を感じさせてくれたのに、今日だけは何も感じない……。

「俺、応援するよ」

僕はそう言った。

別に振り絞って言ったわけではない。

そう言わざるを得なかったのだ。

そんな言葉しか、この空間を繋ぎとめる言葉がなかったから。

「……ごめんね」

彼女もまるで、その言葉しか浮かばなかったように、そう言った。

3.間違っていない

僕はいつも、かっつんにだけは美咲のことを相談していた。

「そっかぁ。アズタも辛いなぁ。で、美咲の好きな人って、やっぱり、ハセさん(仮名)?」

美咲の好きな先輩は周りからハセさんと呼ばれていた。

……あれ? 俺はまだ、美咲が誰を好きかなんて、かっつんに言ってない。

「やっぱ、当たり?」

「かっつん!? どうしてハセさんって分かるんだ!?」

「へ? アズタ知らなかったの? ハセさん、美咲の家にしょっちゅう行ってるし、誰が見ても美咲はハセさんが好きでしょ」

し、しらなかった。

「どうして言ってくれなかったんだよ!?」

「いや、知ってるもんだと思って……。だから、アズタもがんばるなぁって」

僕はがっくりと肩を落とした。最初から無謀な挑戦をしていたのだ。

「……そっかぁ、あの2人うまくいってるんだぁ」

「うまくいってるかは知らないけど、まあ、気を落とすなって」

涙が溢れそうになる。

「まるで、俺はピエロだな」

「まあ、ピエロだね」

……かっつんは僕に対して、いつも正直に言う。

「かっつんは、厳しいよね」

「そう? 優しいと思うけど?」

もう、目指すものがなくなっていた。

どんなに成長しようとも、美咲は振り向いてはくれない。

 

ほんの少しだが成長しかけていたのに、僕は目標を失って退化していた。

「ハセさんとは、どう? うまくいってる?」

彼女に会うたびに、僕はそう訊いた。

それが、僕なりの彼女への接し方だった。

もう、気にしてない。

そこまで君のことを好きじゃなかったよ、とアピールするかのように。

それが「普通に接する」ということだと思っていた。

「よく分かんないや」

美咲の返答はいつもこうだった。

僕は内心、その答えにムッとしていた。

例えうまくいっていなくとも、「うまくいっている」と答えるのが礼儀なんじゃないのか。

僕に余計な期待をさせないために。

我ながら、自分勝手で危険な思想だと思う。

だけど、今なら美咲のことが分かる。

彼女はいつも真実を話そうとする。

できるだけ真実に近い事実を。

できるだけ言葉を選んで。

それが、自分のためであり、同時に人のためになるから。

当時の僕は美咲のことが全く分かっていない。

だから、内心ムッとしていても、何度も訊いた。

「ハセさんとは、どう? うまくいってる?」

ある時、その質問を美咲は無視した。

「あれ、美咲? 聞こえないの? ハセさんとはうまくいってないの?」

「…………」

僕は、彼女たちがうまくいっていないのだと思った。

「うまくいってないのか? なんなら相談にのるよ。応援するって約束したし」

「…………」

「美咲?」

唐突に、彼女は僕をにらみ付けた。

「あんたさぁ、くどいよ。どうしてその話しかできないの?」

ナイフで突きつけられた気がした。

心臓がきりっと痛む。

美咲はそのまま立ち去ってしまった。

何も反論できなかった。

その言葉と彼女の瞳は、僕の何かをズタズタに切り裂いた。

僕の中で憎しみの感情がはじめて芽生えた。

優しくしたつもりだった。

辛い気持ちを隠して普通に接してきたのに。

彼女はそれを否定した。

しょせん、人の優しさなんて分からない、つまらない女なんだ。

もう俺はあんなヤツ好きじゃない。

それから3ヶ月間、彼女と一言も言葉を交わさなかった。

でも、どこかで何かが引っかかっていた。

心の底から美咲を憎みたいのに……。

そうすれば楽になるのに。

何かが引っ掛かって憎めない……。

そう、あの瞳だ。美咲の僕をにらみ付けた瞳。

見透かしているような、真理を知っているような、絶対的な瞳。

まるで、僕が間違っていると言わんばかりの高貴な瞳。

僕の何がいけないんだ! 僕は間違っていないはずなのに!

僕は運がよかったかもしれない。

その答えを教えてくれる人がいたから。

当時僕は居酒屋でアルバイトとして働き始めた。

その時の出会いが、僕を変えるきっかけとなった。

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