連載①「バカの道」

もう20年以上昔のことになりますが、僕が19歳の大学生だったころ、校舎で片思いしていた女性と会話していたら突然にこんなことを言われた。

「あんた、めんどくさいね」

一瞬だけ冗談かと思った。

ただ、その女性の目は僕をにらむように見据えていて、怒っているようにも見えた。

そう、その言葉は「マジ」だったんです。

その女性からそんなことを言われたことがなかったし、当時は何がめんどくさかったのか全く理解できなかった。

だって僕から彼女のことを傷つけるようなことを言ったこともなかったし、その時も普通の会話をしていただけだったから。

僕はただただ傷ついた。

 

ただ、その言葉がきっかけで、僕は急に「恋愛」と「人間関係」の法則を勉強することになったんです。

ありがたいことに、いろいろな「人」や「本」との出会いが「勉強の継続」につながり、いろいろな発見ができるようになった。

「人」について無知で【バカ】だった僕が、大学卒業後には少しまともになりました。

そして、3年の片思いと努力の結果、「めんどくさい」と言った女性と付き合うことになったんです。

ただ、その3年間には「ドラマのような波乱万丈の大恋愛」もあり、20年経った今でも、僕はそのころのことを鮮明に思い出せます。

この【バカがバガじゃなくなる日】は、そんな若かりし頃にいろいろな意味でバカだった僕が、いろいろな人や本との出会いと「大恋愛」によって、3年間で少しまともになっていく様を描いたエッセイ連載になります。

1.「バカがバカじゃなくなる日」連載開始

現在(私が25歳の時)、僕には恋人がいる。

もう、3年の付き合いになるだろうか。

知り合ってからは約7年。大学時代に同じ部活の女性で、歳は僕と同じ。

僕が彼女を好きになってからは6年になる。つまり、3年間片思いだった。

僕は3年間も彼女を口説き続けていた。永く辛い戦いだったように思う。

彼女は最初、僕に全く振り向かなかった。

理由は簡単。

僕がバカだったからだ。

ただ、バカにもいろいろな種類がある。

これから、僕の戦記をつづっていこうと思うのだが、初めに僕がどういうタイプのバカだったかを説明しなくてはいけないだろう。

それは彼女、美咲(仮名)が誕生日だったときの話がうってつけだと思う。

2.バカのタイプ

僕も彼女も19歳のころだった。

彼女には幸い、恋人も好きな人もいなかった。

だからというわけでもないが、僕はとある勘違いをしていた。

僕の想いを伝え続ければ、きっと美咲は振り向いてくれる。

僕は彼女の誕生日に、強引に車に乗せ、夜景が見られる場所に連れて行った。

同じ部活だったので、お互いの情報は筒抜け、彼女が誕生日に何の予定もないことは知っていた。

そしてお互いに一人暮らし。

適当な理由をつけて夜景に連れて行くのは簡単だった。

 

「もう、いい加減、俺を好きになれよ」

2人で夜景を眺めながら僕は言った。

別に決め台詞ではない。しょっちゅう言っていた台詞だ。

少女漫画のイケメンなら似合うのかもしれないが、僕の容姿は「並」中の「並」。

特に女性なら、この時点で、ああ、こいつバカだと思う人もいるかもしれない。

「無理」

美咲はあっさりと言ってのける。

明らかに脈がないのは誰でも分かるだろう。だが、この時の僕の思考は異なる。

無理?

ああ、俺の良さが今は分からないのか。
本当の俺のことが分かれば、すぐに好きなるさ。
だってその証拠に、こうしてデートに付き合ってくれてるじゃん。

自分が強引に誘っていることも忘れて、こんなことを考える。

 

挙句に、さも仕方がない子だと言わんばかりにフッと鼻で笑った。

「まあ、そのうち分かるさ」

「…………」

当然、美咲の頭の上には「?」が浮かんだことだろう。

ひょっとしたら嫌悪感だったかもしれない。

もちろん、僕はそんなこと気が付きもしないでさらに突っ走る。

この日は彼女の誕生日だ。

いつもとは違う、気の利いた台詞を言ってあげなくては!

そうすれば彼女も僕のよさが分かるだろう。

「俺さ、この夜景、好きなんだよね」

「へぇ」

「いつか、この夜景を、俺のモノにしたい」

さしあたり、彼女の頭に浮かんだのは「!?」だろう。

「こいつ、病院に行ったほうがいいかもしれない」ぐらい思っていたのかもしれない。

明らかに愕然とした表情だったのに、僕はその反応を勘違いして、あと一歩だと思った。

たぶん、相手の表情さえ見ていなかった。

「俺ね、今まで欲しいと思ったモノで、手に入らなかったものはないんだよね。お前もさ、絶対手に入れてやるよ」

と、僕は完全な決めセリフだと思って言った。

今振り返ると、富士の樹海に行きたくなるよう恥ずかしいセリフ。

ただ、当時の僕は「あなたって、とっても強引ね。私……」という返事が返ってくると考えていた。バカな僕の頭の中では。

だが、実際は違う。

「はぁ」

諦めきったようなため息。きっと鳥肌が立っていたに違いない。

そりゃあそうだ。

大体、今まで欲しいと思ったモノで手に入らなかった奴なんて、何とかコンツェルン会長の跡取り息子や、大物ハリウッドスターの子供か、サウジアラビアの油田王の家族か、もしくは、今まで何も欲しいものがなかったイェス・キリストぐらいなものである。まあ、というように、僕はそれほど寒く、またバカな人間だった。

美咲が僕に振り向かないのは当たり前のこと。

ただ、今になって彼女を好きになって良かったと思うのは、彼女の反応がとても素直だったことだ。

「こいつほんとバカだなぁ」と思ったら、正直に「うざい」という反応をしてくれる。

だから「なぜ僕はダメなのか」を考えることができた。

当時は「女性を口説く方法」から「カウンセリング」に関する本まで読んで、必死に努力した覚えがある。

今になって思うのは、そんなバカな男にとことん付き合ってくれた彼女に感謝である。

これから、その3年間に学んだことや、彼女に教えられたことを書き綴っていく。

バカな一人の男が、まともになっていく様を感じて頂ければ嬉しい。

3.スキのきっかけ

断っておこう。

美咲(仮名)は初め、僕のバカさ加減に気が付いていなかった。

今でも覚えている。

きっかけは大学2年生の4月の終わりぐらいのことだった。

大学1年生の頃に付き合っていた恋人と別れてから、大体5ヶ月くらい経った頃だったと思う。

ちょうど僕の母親が亡くなって半年。

父はすでに他界していたので、何とも表現できない孤独や不安に苦しめられていた。

そんな状況の中で、僕と美咲のストーリーは始まっていく。

そう、全ての始まりは、キスからだった。

 

僕がアルバイトをしていた居酒屋に、同じ部活の仲間が3人来た。

メンバーは、美咲と他、男が2人。

ビンさん(仮名)とタカピー(仮名)だ。

タカピーは後々この物語に重要な役割を果たす人物で、まずはイケメンな男と覚えていて欲しい。

「お前もバイト終わったら来いよ」

3人は料理と酒に満足したので、そう言い残して帰っていった。

一人暮らしの美咲の家で飲みなおすらしい。

当時の僕は孤独になるのが嫌だったので、バイトが終わったら、酒だけ買い込んで美咲の家に向かった。

玄関を開けると、妙に静かだった。

もう奴らと知り合ってから1年以上の仲だったので、理由はすぐに分かった。

酒も話題にも尽き3人でぐったりしているのだ。

「おいおい、せっかく来てやったんだから、盛り上がるぜ!」

そう僕は一喝して部屋に入った。

とろんとした目つきの3人が僕の方に目を向ける。

「お、おう」と返事をするが、まるで生気がない。僕は無性に腹が立った。

とはいえ、僕には楽しい話題を提供する力もなかったので、特に盛り上げれるわけでもない。

結局4人で恋愛の話を淡々としていた。

「なあ、お前はさ、どんな男が好きなんだ?」

ビンさんが美咲に訊いた。

「う~ん、特にタイプなんてないけど……」

「俺さ、タカピーがオススメだぜ。どう?」

はぁ!? ビンさん、なんでタカピーを薦めてるんだ?

その頃はまだ美咲を好きではなかったが、僕を推薦してくれないビンさんになぜか腹を立てる。

「うーん、別に嫌いじゃないけど……」

どういう心境だったのか今でも分からないけど、美咲はそう答えた。

僕はタカピーを横目で観察したが、酒ででき上がっているので、とろんとした目つきでウンウンと頷いているだけだ。

多分、話の内容を理解していない。

「じゃあさ……」

ビンさんが口を開く。

いよいよ、俺の出番か!?

「ハセ先輩(仮名)は?」

僕はがっくりと肩を落とす。

なんでそこで俺が出てこない!?

「ああ! 私、あの先輩、結構好き。面白いよね」

ちっ。僕は心の中で舌打ちする。

いつも、俺は、俺は、俺は、と、僕は極度の自己顕示欲の持ち主だったのだ。

そんなわけだから、いつも人の会話で浮き沈みをしていた。

この時も、うまく会話に溶け込めずに、ただただ落ち込んだり、腹を立てたりを繰り返していた。

そんな会話を聞きながら「ああ、なんで俺、こんなことしてるんだろう」と考えているうちに、他の3人は眠ってしまった。

全く眠くなかったので、彼らが寝てしまってから大体2時間ぐらいぼうっとしていた。

酒を飲んでいたので、車で帰るわけにもいかない。

今の時代ならスマホをいじっているところだけど、当時は世の中にガラケーが登場したばかり。

初めは頭の中で今日の会話を繰り返し、もう一度落ち込んだり腹を立てたりしていたのだが、不意に孤独が押寄せてきた。

とても大きな孤独だった。

独りでいる時よりも大きな孤独。

僕はなんとなく、隣に寝ていた美咲の手を握った。

きっと誰でも良かったのだと思う。

ただただ、淋しかったのだ。

とても温かい手のぬくもりに不思議と安心した。

何だか、眠れるような気がした。

後の美咲も覚えていないと言っていたので、確認する方法はないが、その時確かに彼女の手は僕の手を握り返した。

ドキリとした。

一瞬離そうかとも思ったが、孤独が上回った。

「起きてるのか?」

「…………」

彼女の耳元で訊いてみたが、反応はない。

部屋の片隅で転がっている男2人を見てみたが、いびきをかいて寝ている。

気付いていない。

僕は美咲の顔を覗き込んだ。

なぜかは覚えていないが、多分、悔しかったのだと思う。

誰も自分を見てくれない。そんな気がしていたから。

だから、僕はそっとキスをした。

起きていたのか、寝ぼけていたのかは知らないが、美咲は確かにキスを返してくれた。

続きは下記ページです。

おすすめの記事